「2020年、世界で最も成長率の高いブランド」に「On」というシューズブランドが選ばれたのをご存知でしょうか?
2022年5月、その成長の裏側に迫るべく株式会社ジェイエルネスはOn・Japan 代表の駒田氏をお招きしリアルな背景をお話しいただきました。
苦悩や葛藤の連続でなかなか売上に繋がらなかった駒田氏。それを変えたのは駒田氏が欠かさなかったオープンな情報発信や交流を通してできたOn「コミュニティ」の存在でした。
今回の記事では近年企業の間でも注目されている「コミュニティビルディング(マーケティング)」に着目しながらOnの成長について紹介していきます。
フィットネス業界における「成長するジム」についても触れているのでお見逃しなく!
ご登壇者の紹介
プレゼンター
- On・Japan株式会社 代表 駒田博紀 氏
司会
「On」とはどんなブランド?
「On」の誕生
「On」は2010年にスイスで生まれたランニングシューズです。創業者は元アスリートのオリヴィエ氏。世界一過酷と言われる「アイアンマン」の競技に出場し、過去3回ヨーロッパ・チャンピオンになったことがあります。
そんな彼がOnを世に出した背景にあったのはアスリート人生の挫折でした。アキレス腱の炎症を起こしてしまい、走ることが難しくなったのです。走りやすい靴を探して様々な製品を試したものの、彼に合う靴は見つかりませんでした。
「足の負担が少なくて走りやすい靴があったらいいのに…」そう望んでオリヴィエ氏が誕生させたのが「On」のシューズです。
「On」の特徴
- 独自で特許を取得している「CloudTec®」と呼ばれるシステム
- クッション性の高さによるソフトな着地とダイレクトな蹴り出しの両立
日常だけでなくレースにおいても快適な履き心地を提供しています。製作当時は水まき用のホースの先端を輪切りにしたものをソール部分につけるという斬新なアイデアでした。
On・Japanの歴史
- 2013 日本上陸
- 2014 On Japan設立
- 2015-2018 3年弱で売り上げ10倍を達成
- 2020 世界で最も成長したブランドに
- 2021 「On」のニューヨーク証券取引所上場 / 原宿店オープン
On・Japanのマーケティング戦略
On・Japanが成長できた理由
2015年から2018年の3年弱でOn・Japanの売り上げは10倍まで成長しましたが、駒田氏によると「最初から戦略を決めていた訳ではなく予算や人手の制約があるなかで行動し続けた結果、ふと気づくとコミュニティビルディング(マーケティング)で成長できていた」とのことでした。
そもそもコミュニティビルディングとは?
コミュニティビルディング(マーケティング)とは、ユーザー同士や企業とユーザーが交流できるコミュニティを作り、そこで得た情報や知見をマーケティング活動に活かす手法です。
(引用:https://liskul.com/community-marketing-94397#i)
具体的には、
- オンラインでSNSや動画配信を活用してユーザー同士の交流を促す
- オフラインでユーザー向けのイベントを催す
上記のような活動を行うことで、コミュニティ内外に企業やその製品の魅力を伝えることが可能になるのです。
今でこそマーケティングの一環として「コミュニティ」に着目する企業は増えています。
しかし駒田氏が「On」のマーケティングに携わった2013年、マーケティングといえば
- テレビCM
- 雑誌のメディア露出
- 店頭での販売促進キャンペーン
などがほとんどでした。
それでも駒田氏は当時から情報発信を続けており、結果として今の成長につながっているのです。ここからは駒田氏の活動を深掘りしてお聞きしました。
与えられた予算はたったの400万円
具体的な活動
2013年当時、駒田氏が勤めていた商社から契約した「On」の担当を任されました。日本に「On」を広めるために与えられたマーケティング予算は年間たったの400万円。
先にも書きましたが当時のマーケティングの主流はテレビCMや雑誌の掲載、大掛かりな販売促進キャンペーンなどどれもお金がかかるものでした。
それでも駒田氏は「On」を広めるために100万円の費用をかけて東京マラソンのイベントに出店しました。
「結果は散々だった」と、駒田氏は包み隠さず語ってくださいました。靴は16足しか売れず売り上げとしては失敗に終わりました。
しかし、その話を聞いて「On」の魅力を知ってくれたおよそ20人の方とfacebookで繋がることができました。
これがコミュニティビルディングの始まりとなります。その後、駒田氏自身が「On」を身につけてトライアスロンなどの大会に出場したことやプライベートを含めてオープンに発信していったそうです。
また商品を販売する時も「友達割引」などは決して行わなかったそうです。ユーザーの方に分け隔てなく誠実に向き合った結果、それに共感し応援してくれる人が現れ始めました。
突然の契約終了
駒田氏の情報発信を通じて、「On」のコミュニティが少しずつ盛り上がってきた実感があったそうです。
そんな矢先、2014年9月に会社から言い渡された「On」との契約解除。コミュニティ、ショップ、メディアなど各方面の方々との繋がりができ始めていたものの、なかなか売り上げに繋がらなかったのが理由でした。
「せっかくOnを知ってくれた人が増えて、ただのブランドとユーザーさんの関係ではなく仲間に近い感覚のコミュニティができてきたのに、その方々を裏切るわけにはいかない」
その想いで駒田氏は「On」の創業者に直接プレゼンをしました。
ファンの力で誕生した「On・Japan」
ブランドを支えてくれるOnフレンズ(Onのコミュニティの名称)の顔を身近に感じていた駒田氏。
「Onでもっと走りたい」
「Onで走るのが楽しい」
そういった声を間近で聞いていたからこそ、創業者へのプレゼンで「Onを通じてもっと走る楽しさを実感してもらいたい」と熱く語ることができたそうです。
その結果、創業者の方に想いは伝わり、2014年「On・Japan」が誕生しました。「On」には「こうありたい」という理念(spirit)があります。駒田氏は常にその発信を続けています。
理念(spirit)に共感してくれて、自然に集まってできたのがコミュニティ。そのコミュニティにいる人が「On」を身につけて理念を体現しその良さを発信してくれたそうです。それがコミュニティ外にも伝わり、結果としてランニングシューズ市場の中でOnのポジションを確立することになったのです。
フィットネス業界でも活かせるコミュニティビルディング
ここまでお伝えしていった話は、コミュニティビルディングがOn Japanの成長に大きく貢献した経緯です。セミナーでは更に、フィットネス業界においても取り組めることがあると話が進んでいきました。
その具体例が、「入会費や月会費の割引問題」です。
「公平に分け隔てなくコミュニケーションを取ることが会社の活動に共感を呼び、商品の良さを多くの人に伝える」
この駒田氏の話をジムに当てはめると、例えば「トレーナーの友人や知り合いに特別価格でレッスンを提供する」ことは、一概に良いとは言えないのかもしれません。
「あそこのジムが入会金無料にしている…」
「友達割引をしているからうちでもしないと…」
このように周りのジムに合わせて値引きをしようとするのではなく、「本当に値引きが必要かどうか」を一度考えてみるとよいかもしれません。
「自分のジムでは全てのお客様から公平に入会金、料金を頂いております。なぜなら、割引なしでも満足いただけるセッションを全ての人に提供しているからです。」
例えばこのような発信方法ができれば、一時的な値引きではなく長期的に自社サービスの質をあげることが可能になるかもしれません。それが他のジムとの差別化を可能にし、結果的にお客様から選ばれる「成長するジム」になると考えられるでしょう。
皆さんも良いものを見つけたら思わず誰かに共有したくなった経験があるのではないでしょうか?
重要なのは、特定の人に安く売るのではなく、全ての人に同じ値段で提供することです。短期的な売り上げではなく、長い目で見た時にコミュニティの広がりや売り上げの大きさに繋がると言えます。
駒田氏は以下のように表現してくださいました。「コミュニティ「に」売るのではなくコミュニティを「通じて」売る」
まとめ
「コミュニティ」によりOn Japanができたことをお分かりいただけたでしょうか?
最初から「コミュニティビルディング」を駒田氏は意識していたわけではありませんでした。限られた費用の中で、常に全ての人に対して「正直に誠実に」情報発信してきた結果、Onの魅力を知って応援してくれた人が「コミュニティ」として繋がったのです。
最後に駒田氏からは「ビジネスにおいてもただのお客様ではなく、普段友人と接するように感謝と尊厳を持って接することが大事」との言葉をいただきました。
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