少子高齢化の進む日本で、健康に生きる、病気になった時の備えはますます重要になっています。その中で、最近注目を浴びているのが国家資格である鍼灸師です。日本では長年、治療院で受けられる治療の1つとして、鍼灸が愛されてきました。
今回は鍼灸師とは一体どのような仕事なのか。鍼灸師の資格取得に必要な条件や大学や学校で学ぶ内容。合格率、取得後の気になる収入などについてまとめて解説します。
鍼灸師はどんな仕事をするのか
鍼灸師は鍼(はり)と灸(きゅう)の2つで、身体に刺激を与え自然治癒力を高め、患者の症状改善・予防、健康増進のお手伝いをする医療系の技術職です。よく「鍼灸師」と呼ばれていますが、実際にははり師・きゅう師という風に、この2つは別の資格として扱われています。
鍼灸は中国にて始まった、東洋医学の伝統的な医療法です。日本には6世紀初頭の飛鳥時代に、大陸から伝えられたと言われています。日本での歴史は、同じく東洋医学で有名な漢方薬よりも古いそうです。
鍼灸はいずれも、経穴(けいけつ)と呼ばれるツボを刺激する点で共通しています。身体を流れるエネルギーの流れ・バランスを診る「脈診(みゃくしん)」。患者の血色、肌、舌の状態や表情を見て、栄養が足りているのか、病状はどうかを判断する「望診(ぼうしん)」。この2つをはじめとした独特のアプローチで、患者の治療方法を模索します。
そして、実際の鍼灸の治療方法で使われるのが「はり」と「きゅう」です。はりは非常に細いステンレス製の鍼を経穴に刺し、一時的な刺激を与えて筋肉のコリを取ったり、血行を促進させます。最近では、鍼に微弱電流を流すものもあるようです。
一方「きゅう」は、よもぎなどで作った「もぐさ」と呼ばれる素材を経穴に起き、もぐさを点火させて熱刺激を与えます。鍼灸はいずれも治療方法が似ているため、両方の資格を持っている人が多いです。
そのため、一般的には鍼灸師とひとくくりに呼ばれています。医師以外で患者の治療を許可されている、数少ない国家資格の1つが鍼灸師です。病気の治療や健康増進のほか、美容面でも効果があるとされています。
最近ではアメリカ、ヨーロッパなどアジア圏以外にも、鍼灸を用いた代替医療の可能性が注目されています。
現在は全国にある認定学校(大学や短大など)で医療や鍼灸について勉強し、資格を取得した人が鍼灸師として働くことができます。
資格取得でどんな勉強をするのか
鍼灸師の資格を取得するためには、文部科学大臣認定の学校か厚生労働大臣認定の養成学校にて、3年以上かけて必要な知識や技能を修得する必要があります。各教育機関では国家試験に合格するために、実際に試験と関連した学問を勉強するわけです。
実際に国家試験科目をざっと紹介します。
- 医療概論:医学や医療に関する社会情勢、今日までの医学研究の概要を学びます。
- 衛生学公衆衛生学:人々の健康維持・増進や、病気予防に必要な基礎知識を学びます。
- 関係法規:医療に欠かせない臨床検査や検査技術にまつわる法規、医事法規、薬事法規、保険衛生法規などを学びます。
- 解剖学:筋肉・骨・人体や関節、内臓などなど、生物(ここでは人体)の形態・構造を学びます。
- 生理学:細胞や内臓の働きなど、体内の組織がもたらす生体現象について学びます。
- 病理学:人々が病気になる原因や、患者が病気にかかることでどのような変化が身体に起こるのかを学びます。
- 臨床医学(総論と各論の2つがあります):医療現場で欠かせない患者へのケアについて、それぞれの病気・症状に対処するための知識を学びます。
- リハビリテーション医学:病気・ケガの治療を続けている患者が持つ障害の回復やケアを行い、再び日常生活を遅れるようにすることを目指す方法論を学びます。
- 東洋医学概論:中国を源流に持つ東洋医学が生まれ、日本にどう伝えられてきたのかを学びます。
- 経絡経穴概論:東洋医学ならではの考えでもある、経穴(ツボ)や経絡に関する、基礎的な知識を学びます。
- 東洋医学臨床論:東洋医学概論、経絡経穴概論などで学んだ基礎知識を、実際の患者に応用するための方法を学びます。
- はり理論およびきゅう理論:鍼灸師を目指す上で欠かせない、鍼や灸の扱い方、鍼灸それぞれによる患者への治療方法を学びます。
こうして見てみると、医療の基本から東洋医学、そして鍼灸に関する専門知識までかなり幅広く勉強することが分かりますね。鍼灸師の勉強では、こうした知識を座学で学ぶだけでなく、各医療機関が実施する現場実習などを通じて、実践も学ぶこととなります。
国家資格を取得するまでにやること。最短3年で本当に合格できるのか
先程伝えた通り、鍼灸師の国家資格を取得するには、文部科学大臣か厚生労働大臣が認める教育機関にて、最低3年所定の勉強を修める必要があります。そのうえで、年1回開催される国家試験を受験して合格しなくてはいけません。
では、仮にこれから鍼灸師を目指すと仮定して、実際にどのようなハードルをクリアしなくてはいけないのかを見てみましょう。
(1)国家試験の内容
鍼灸師の国家試験は、毎年2月下旬(ちょうど卒業前のタイミング)で実施されます。実際の試験科目は、先程勉強内容で伝えた通りです。
- 医療概論
- 衛生学・公衆衛生学
- 関係法規
- 解剖学
- 生理学
- 病理学概論
- 臨床医学総論
- 臨床医学各論
- リハビリテーション医学
- 東洋医学概論
- 経絡経穴概論
- はり理論
- 東洋医学臨床論
この試験科目から、1問1点として合計150問が出題され、90点以上を取れば合格となります。つまり、正答率60%以上が合格ラインとなるわけですね。
鍼灸師ははり師・きゅう師を合わせた名称です。もしも両方の資格を取りたい場合は、当然両方の資格を受ける必要があります。
(2)合格率
これから鍼灸師を目指す人にとって、やはり気になるのは試験の合格率ですよね。厚生労働省は、各年の国家試験合格者の割合を次のように発表しています。
2016年
はり師 73.4%
きゅう師 75.0%
2017年
はり師 67.0%
きゅう師 67.7%
2018年
はり師 57.7%
きゅう師 62.5%
2019年
はり師 76.4%
きゅう師 78.5%
2020年
はり師 73.6%
きゅう師 74.3%
年次によって、国家試験の合格率は5割〜7割とばらつきがあります。6割を切る合格率だった18年を考えると、鍼灸師の国家試験は「授業と試験対策をしっかりすれば問題なく合格できるが、油断は禁物」と言えるかもしれません。
もちろん、所定の条件である最低年数である3年で資格取得することも、十分可能です。
(3)学費
鍼灸師の国家取得では、四年制大学・短大・専門学校・養成学校といった養成学校への進学が必須となります。養成学校は全国に約90校ありますが、多くの場合、年間の授業料は120万〜150万円ほどかかります。
これ以外に、初年度では入学金が30万〜50万円ほどかかるでしょう。そのため、三年制の学校では400万〜500万円、四年生大学では500万〜600万円の学費がかかります。
これはあくまで授業料なので、別途教科書代・白衣代・実習費などで10万〜30万円ほど費用がかかると考えてください。
(4)資格取得にかかる費用
鍼灸師の資格を取得する場合、はり師・きゅう師の資格試験では1試験で14,400円かかるため、1度の受験で28,800円かかります。また、鍼灸師であることを登録する場合、申請手数料および登録免許料が1免許あたり5,600円かかります(鍼灸師は2免許なので11,200円)。
国家資格取得後、こうした手続きが別途必要になることを覚えておきましょう。
鍼灸師は稼げるの?気になる平均年収を調べてみました
これから鍼灸師の資格を取得する人にとって、やはり気になるのは「鍼灸師は稼げるのか?」といった将来性です。具体的に鍼灸師を取得した人は、治療院で働く、独立開業する、トレーナー業で鍼灸の知識を活かすといった進路をたどっています。
それぞれのケースで、鍼灸師がどのくらいの年収を見込めるのかを調べてみました。
(1)治療院などで働く場合
最もメジャーな進路として、鍼灸師を取得した人は治療院(整体院など)や病院に、スタッフとして勤務します。その場合、年収は約300万〜400万円が一般的です。月収ベースだと20万円〜30万円で、賞与が付くという感じですね。
鍼灸師の仕事の平均年収はおよそ370万円
初任給23万程度で平均月収は31万円というデータがあります。
*2020年12月「求人ボックス」に掲載された求人票の給与情報をもとに算出。」
*「平均年収は中央値を利用」
*日本の平均年収:国税庁の平成30年度「民間給与実態統計調査結果」に基づいています
鍼灸師の給与は、年齢・年次でそこまで差が大きくありません。店舗リーダーやチームリーダーになることで、より多くの収入を得られる可能性があります。
また、一部治療院は固定給+歩合給という形で、成果報酬型の給与体系にしています。技術を磨き多くの患者さんからの指名を得ることで、高い収入が得られます。
(2)独立開業する場合
鍼灸師は「開業権」があり、自分の治療院を経営することも可能です。収入もスタッフより高くなるケースが多く、1,000万円以上の年収を稼ぐことも不可能ではありません。
最近話題の美容鍼灸や高齢者向けの鍼灸など、新たなサービスを打ち出すことで、売上増=収入増を目指すこともできるでしょう。
とはいえ、治療院を開業した場合は鍼灸師としての腕だけでなく、集客や経費計算など「経営者」としての手腕が大きく問われます。当然治療院の収入で売上は左右されるし、患者さんが増えれば同じく鍼灸師の資格を持つスタッフを、雇う必要も出てくるでしょう。
鍼灸のことを学校で学ぶことはあっても、鍼灸師の資格では会社経営やマーケティングといった知識は、なかなか学べません。鍼灸師の資格取得後、独立開業を目指したいという場合は、鍼灸以外の経営の勉強が必要となるでしょう。高い収入を得たいというモチベーション以上の責任感が、鍼灸師の独立開業には求められるのです。
(3)トレーナー業で鍼灸の知識を活かす場合
鍼灸師は治療院・病院以外でスポーツチームのメディカルスタッフとして働く人もいます。勤務スタッフで働く場合、収入は治療院などで働く場合とそう変わりません。
そのほかにも、柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師など、他の国家資格も合わせて取得してより高度な治療を施せるようにする人もいます。こうした人の場合、年収が600万円を超えるケースもあるようです。
昨今のフィットネスブームによって、病気やケガの治療ではなく、予防やパフォーマンスアップを図るトレーナーとして活躍する人が増えています。鍼灸師も、パーソナルトレーナーなど活躍の幅を徐々に増やしていると言えるでしょう。
【鍼灸師からパーソナルトレーナーへ「2ndPASS卒業生インタビュー」】
資格を取得することよりも、取得後のキャリアを思い浮かべながら進路を選ぼう
鍼灸師の仕事内容、取得方法、気になる進路や年収について紹介しました。医師以外で医療行為が行える存在として、鍼灸師は非常に貴重な資格です。これから少子高齢化がさらに深刻化する中で、その重要性はさらに増すと考えられています。
これから医療や健康産業に進む人は、自分がどんな形でこの業界に関わりたいかを、考えながら進学先の学校や、それ以外の進路を模索してみてください。
病気やケガに苦しむ患者さんに寄り添いたい人は、やはり所定の学校に通い、鍼灸師をはじめとした医療技術に関する資格を取得すべきです。
そうではなく、まだ健康な人や「最近身体の衰えを感じ始めた」という人に、健康増進やパフォーマンスアップを施してあげたいのなら、トレーナーの技術・知識・心構えを学べる本や教育機関を探してみましょう。美容やダイエットといったテーマでフィットネスを提供したい人も、同じ理由で別の進路を考えてみるといいでしょう。
病気、パフォーマンスアップ、健康、美容、ダイエット。健康産業にまつわるテーマに関わる方法は、1つではありません。自分のライフスタイルや将来のテーマを考えつつ、進学先の学校も含め自分に合った道を選択してください。
この記事を見た方はこちらも見ています
更新日:2024.06.18
スポーツトレーナーに向いているのはこんな人!特徴とスキルを解…
業界情報
更新日:2024.06.18
パーソナルトレーナーの個人契約ガイド:契約書作成、集客までの…
パーソナルトレーナー
更新日:2024.06.18
パーソナルジム集客の基本。7つの方法と2ndPASS卒業生の…
業界情報