日本にはいくつかの医療系国家資格があります。そのうちのひとつが、「柔道整復師」です。病院とは別の分野で柔道整復師は、少子高齢化が進む日本でとても重要な国家資格と言われています。
2000年から、柔道整復師は運動機能に障害を抱える方へのリハビリができる、「機能訓練指導員」として働くことができる資格になりました。
活躍の場が広がる柔道整復師。今回はこの国家資格の特徴や取得方法、将来の働き方を解説します!パーソナルトレーナーとの関連についても紹介しているので、これからトレーナーになろうと思っている方もぜひ読んでみてください。
柔道整復師ってどんな国家資格?仕事内容は?
柔道整復師は、患者の骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷といったケガの治療を行える資格です。
これらのケガは、主に骨や関節、筋肉、腱、靭帯などに加わった負荷によって発生します。柔道整復師は医師と違い、手術を行わない「非観血的療法」という方法を持って、患者を治療するのです。
柔道整復師の特徴は、次の3点あります。
整復法、固定法、後療法
柔道整復師は、「整復法」「固定法」「後療法」という3種類の施術・治療法を実施します。
- 整復法
骨折した部位や関節の外れた部位を、元に戻すための施術・治療技術です。
- 固定法
整復法によって元の位置に戻した患部を、三角巾、包帯などを使って固定・施術す
る治療法です。
- 後療法
脱臼、打撲、捻挫といったケガで損傷した組織を、回復するための施術・治療法です。おもに「物理療法」「運動療法」「手技療法」の3種類に分けられます。
殺法と活法
柔道整復師の扱う「柔道整復術」は、日本古来の武術である柔術が由来します。柔術は素手・武器で戦う武術で、現在の柔道のように投げ技、絞め技、関節技を駆使して、相手を殺傷する技術が磨かれてきました。これを「殺法(さっぽう)」と呼びます。
一方で、柔術では殺法の追求と同時に、負傷者の治療や蘇生の方法も発展していきました。これが「活法(かっぽう)」で、現在の柔道整復術にも多くの技術が受け継がれ、発展を続けています。
整体師と柔道整復師の違い
柔道整復師とよく似た資格に、「整体師」があります。この資格の大きな違いは、柔道整復師は国家資格で、整体師は民間資格という点です。そして柔道整復師の治療は保険が適用される一方、整体師の行う温熱療法や光熱療法、刺激療法などのケアは「医療類似行為」とみなされ、保険が適用されません。
しかし、柔道整復師と整体師は開業権(起業、独立できる権利)を持つという共通点もあります。将来的な治療方法やできること・できないことを比べた上で、どちらの資格を取るべきか考えるといいでしょう。
柔道整復師の資格取得方法
柔道整復師になるには、所定の大学や専門学校で勉強をして、国家試験を受けなくてはいけません。
学校への進学〜国家試験の受験までの流れを見てみましょう。
- 高校を卒業する。
- 「柔道整復師養成施設」として厚生労働大臣が認定した専門学校(3年制以上)、または文部科学大臣が認定した大学、もしくは3年以上の短期大学のいずれかに進学する。
- 2.で紹介された学校で3年以上の教育課程を経て、厚生労働省が実施する国家試験を受験する。なお、試験は毎年2月末〜3月初旬に受験できる。
- 試験に合格し、柔道整復師の資格が付与される。
ここからも分かるように、柔道整復師は学校(大学、短大、専門学校)に進学後、最短でも3年の勉強が必要です。
柔道整復師の学校はいくつあるの?社会人でも通える?
柔道整復師の養成施設として認定されている学校(大学、短大、専門学校)は、全国109校(2015年度時点)あります。
なかには夜間部を設けている学校もあるので、日中ではなく夜間しか通えない社会人でも、働きながら学校で勉強し資格を取得することが可能です。
柔道整復師の学校の学費ってどのくらい?
柔道整復師の学校は、初年度で次のような学費がかかります。
- 大学、短大の場合 約30万〜200万円
- 専門学校の場合 約105万〜200万円
柔道整復師の合格率は「現役」なら6割以上
柔道整復師の国家試験は、基本的に次の条件で合否が決まります。
- 必修問題は1問1点で、全50問中40点以上(得点率80%以上)
- 一般問題は1問1点で、全200問中120点以上(得点率60%以上)
- 必修問題及び一般問題のいずれも合格基準を満たしている
2020年3月1日に実施された柔道整復師国家試験は、合格率が64.5%でした。ちなみにその内訳を見ると、新卒者の合格率は84.8%とかなり高いのに対して、既卒者の合格率は16.5%と非常に低かったです。
柔道整復師の学校(大学、短大、専門学校)では、さまざまな施設・設備に加えて実地での学習もできます。在学中にそれらの知識・技術をしっかり学んでおけば、合格は難しくないということが分かります。
資格取得後の活躍
柔道整復師を取得した方の就職先や働き方はどのようなものなのでしょうか?
スポーツトレーナー
スポーツトレーナーは、アスリートが高いパフォーマンスを発揮できるように、ケガの予防のためのケア、トレーニングを行ったり、ケガをしたあとのリハビリ、トレーニングを行ったりする職業です。
激しい運動量や接触が珍しくないスポーツの現場で、骨折や脱臼、打撲といった外傷は多く起こります。それらの治療を専門的に学ぶ柔道整復師は、スポーツ現場で非常に貴重な存在です。実際に、柔道整復師の国家資格取得後にスポーツチームのトレーナーとなる方は少なくありません。
法律上、スポーツトレーナーとしてアスリートのケアをする仕事は、「医療類似行為」とみなされます。そのため、メディカル的要素の強い仕事を行うのなら、医療系国家資格の取得が不可欠です。
スポーツトレーナーとして活躍できる国家資格は柔道整復師だけではないので、詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
さまざまな医療現場
柔道整復師の進路として、有名なのが医療現場です。この「医療現場」という言葉も非常に幅広く、接骨院、病院の整形外科、リハビリ施設などがあります。時には医師や看護師、理学療法士などと連携して、患者のリハビリ・機能訓練指導を担います。
接骨院や整骨院では、幅広い年齢層の患者に、外傷のケアを行います。
介護福祉施設
デイサービス、グループホームといった福祉施設、介護施設で、機能訓練指導を行います。冒頭でも触れましたが、機能訓練指導員は柔道整復師をはじめ、特殊な技能を持つ人しか就けない職業です。
パーソナルトレーナーになる
柔道整復師からの直接の進路ではありませんが、ここ数年で増加傾向にあるパーソナルトレーナーのなかには、柔道整復師など医療系国家資格を持つ人もいます。詳しくはこのあとお伝えしますが、パーソナルトレーナーと柔道整復師には、意外にも仕事内容で共通点が多いのです。
独立開業ができる国家資格
柔道整復師の進路として特筆すべきは、この国家資格が「開業権」を持つといいうことにあります。つまり、上で紹介した接骨院、整体院を自分で開業し、経営することができるのです。
独立開業の大きなメリットは、自分の考える施術、ケアをできる点です。外傷をケアするだけでなく、なるべくケガをしないためのトレーニング、ストレッチを指導する接骨院や、よりリハビリテーションに特化した整骨院。こうした自由な発想で患者の治療ができるのです。
接骨院・整骨院の経営という難しい課題にも直面しますが、うまく経営が上向けば高収入を得ることもできます。
パーソナルトレーナーになる柔道整復師
パーソナルトレーナーは、民間資格・国家資格を問わず必須の資格はありません。それでも、パーソナルトレーナーを目指す人が柔道整復師を取得するのには、大きなメリットがあります。
パーソナルトレーナーの仕事は?と聞かれると、多くの人は「お客様のダイエットをサポートする」と答えるでしょう。しかし、ここで大きな落とし穴がひとつあります。
ひとつは、パーソナルトレーニングを受けるお客様は、必ずしも健康体ではないという点です。一見健康に見える人でも、慢性的な腰痛、肩の脱臼グセ、手首が痛いなど、意外な痛みに悩まされていることがあります。
ここまでいかずとも、身体が硬いというお客様に、いきなりハードなトレーニングをしたら…。ボディメイクの前に、お客様がケガをしてしまうかもしれません。
最初の目的はダイエットだったけど、まずは身体のコンディションを整える内容に変更した。そういうケースはパーソナルジムで非常に多いですし、コンディションを整えるための施術にトレーニング内容を工夫した結果、お客様を健康的に痩せさせることに成功したという事例もあります。
「効率的に身体を鍛えるトレーニング方法」だけを知っても、パーソナルトレーナーとして活躍するのは難しいでしょう。お客様の痛みの原因を知り、それを緩和するノウハウを知っていることも、パーソナルトレーナーには求められます。そのため柔道整復師の知識を活かして、パーソナルトレーナーに活躍の幅を広げるパターンがあるのです。
また、パーソナルトレーナーは無資格でもなれる職業ですが、仮に無資格のパーソナルトレーナーと国家資格保有者のトレーナーであれば、後者の方が信頼できると考えますよね(もちろん、外見の清潔感や説明のうまさ、相手に寄り添える性格など、パーソナルトレーナーに求められる要素はほかにもたくさんあります)。
柔道整復師に限らず、「資格を持っている」ことはパーソナルトレーナーが最初の入り口で信頼を勝ち取るのに、意外と有効な要素と言えるでしょう。
柔道整復師からパーソナルトレーナーに転身【セカンドパス卒業生インタビュー】
将来性
柔道整復師の将来性ですが、年々需要は増えていると言えます。その理由は、高齢社会に伴う機能訓練指導員としての可能性です。
日本は世界的にも知られる、少子高齢社会を迎えます。同時に日本は世界的な長寿国ですが、重要なのは「健康寿命」です。ベッドで寝たきりの状態を防ぎつつ、病気やケガをしないまま、どれだけ元気な状態で毎日を過ごすことができるか。これを実現するには、病院や医師よりも地域医療に近い立場である柔道整復師が重要となります。
外傷の治療を行う柔道整復師ですが、機能訓練指導員として運動機能の改善・老化予防にも関われるという点でも、ますますその仕事が重要となるでしょう。
これは医療従事者という立場だけでなく、柔道整復師からパーソナルトレーナーに進む人にも当てはまります。若い世代〜高齢者への健康指導。この2つができるトレーナーは、若年層だけをターゲットにするトレーナーよりも、集客の可能性が大きく上がることは明白です。
いつまでも若々しく元気に過ごしたい。そういうニーズに直接アプローチできるという点で、柔道整復師の将来性は非常に高いです。
まとめ
柔道整復師の特徴やなり方、将来性などについて解説しました。柔道整復師のノウハウ・知識は医療現場からトレーナーまで応用が効き、非常に幅広いフィールドで活用できます。今後医療・健康業界で活動したい方は、具体的に学校を探してみるといいでしょう。
一方、健康業界で働く上で柔道整復師は必須な資格というわけではありません。ケガのケアや予防方法、適切な身体づくりのためのトレーニング方法を学ぶ方法はいくつもあります。自分がどの分野で働きたいか、どれくらいの期間で現場に立ちたいか。そういった自己分析を重ねた上で、学ぶ場所、取得する資格を決めてみてください。
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